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[JPN] Shunpei Nakata 中田春平 – 木曜日の男

1. 東北のとある街に、昭和三十年代のラーメン屋をイメージした店構えの、「らーめん飛流」という小さな店がある。 この店は、炭火焼きチャーシューや九州産の天然塩などこだわりの食材が売りで、オープン当初はそこそこの客の賑わいもあった。だが、駅前から続く繁華街から少し離れているうえ、人通りの寂しい裏通りにあるという立地の悪さが祟ってか、徐々に客足は落ちていき、それを取り戻せないまま一年が過ぎた。 そして、今。 夜の十一時を回ろうとしている「らーめん飛流」の店内には――。 酒のにおいをぷんぷんさせていちゃついている若いカップル以外、客の姿はない。 「うま塩二丁!」 この店のたった一人の店員である田丸祐(たすく)は、カップルからのオーダーを、威勢良く店長の仁科周作に伝えた。しかし周作は、それが耳に入っていないかのように、店の真ん中にある、狭く細長いコの字型のオープンキッチンの中で、ぼんやりと突っ立っているだけだ。 「大将、うま塩二丁!」 一段と大きな声を張り上げた祐のオーダーに、「大将」と呼ばれた周作ははっとして、 「……ああ、うま塩二丁な」 と、あわてて復唱した。 このところ、木曜日の閉店時刻近くなると、周作の様子が少しおかしくなる。 祐が、周作の異変に気づくようになったのは、三か月ほど前からだ。仕事中、あきらかに落ち着きがなくなると思ったら、さっきのようにぼうっとしていることもある。 ふだん、自分自身にも祐にも厳しい周作にしては、かなり珍しいことだ。 そして、祐にはもう一つ気になっていることがある。それは、同じ木曜日の夜十一時半になると、決まってこの店に現れる男のことだ。 「……らっしゃーい」 今夜もまた、その時間ぎりぎりに、その男が現れた。 男と入れ代わりに、それまで残っていたカップルが会計を済ませて店を出たため、店内にいる客はその男一人だけとなった。 やや大柄の体に黒いジャンパーを羽織った男は、無表情のままじろりと祐、そして周作を見ると、黙ってカウンター席についた。その席は、周作のちょうど目の前にある。
Shunpei Nakata 中田春平 木曜日の男
男のぎろりと剥いた大きな目と、やや強面の顔が、誰彼となく睨んでいるような印象を与える。その見た目は周作よりやや年上の三十代後半という感じもするが、独特の風貌からそれより若くも年上にも見える。しんとした店内にぽつりといるその男の存在は、黙っていてもどこかに威圧を感じさせた。 しかし、祐は努めて冷静な表情を作り、男にオーダーを取りに行った。と言っても、男の注文するメニューは毎回「うま塩ネギのせらーめん」なのだが。 「お客さん、『いつもの』でいいっすか」 男は黙っている。ということはそれでいいのだろう。 「大将、うま味……」 祐がオーダーを伝えようと、周作に振り向いたとき。 キッチンの中から周作は、手を止めたまま、固い表情でじっと二人の様子を見ていた。 「ネギのせ、一丁……」 その異様とも思える周作のこわばった目つきに、祐の声が途端に小さくなった。 *** 明かりがほとんど消えた深夜のオフィスビルと、すっかり葉を落とした落葉樹が立ち並ぶ街を、一陣の木枯らしが駆け抜けていく。 祐は、その脇の広い歩道を自転車でうねうねと蛇行しながら走っていた。 (ったく……なんなんだよ。大将も、「あの男」も) あれから周作は、店の閉店時刻の〇時を待たずに、祐に帰り支度をするように命じた。 (でも、店の後片づけとか皿洗いがまだ残ってるっすけど……) (それは全部俺がやっておく。いいからおまえはさっさと帰れっ) そう気忙しく言うと、周作は祐を店から追い出すようにして、先に帰らせた。 ――「あの男」を一人、店に残したままで。 「まさか……」 祐は、自転車の急ブレーキをかけた。 びゅう、と音を立てて、また冷たい木枯らしが吹き抜けていく。 祐はハンドルを切り、来た道を引き返した。 *** そのまま自分の店まで戻った祐は、すでにのれんが仕舞われている店の脇に自転車を停め、まず裏口に回った。そして、ポケットから合鍵を出して勝手口を開け、音を立てないようにそっと中に入った。店の裏にある真っ暗なこの部屋には食材倉庫と製麺室があり、その先に進むと店内へと続く引き戸がある。 引き戸の隙間からは、わずかに店内から光が漏れていた。 祐は戸の前に立ち、その向こうから聞こえる音に耳を澄ませた。すると奥から、男たち――おそらく、周作とあの男の、荒い息づかいが聞こえてきた。 (! ……ケンカかっ) 祐は、手近にあったすりこぎを片手に、そろそろと扉を開けようとして――。 「……!!」 扉を二、三センチほど開けたところで、その手が止まった。 その先には。 まだ湯気を立てている寸胴鍋・ラーメン皿・業務用冷蔵庫などに囲まれたキッチンの中に、こちらに背を向けて立っている周作と、その背後でしゃがみ込んでいるさっきの客の男がいた。 ただし周作は、下半身には服を何一つ身につけていない。そして、むき出しになった肉付きのいい周作の尻の下に、男がすっぽりと顔をうずめていた。 暗い店内でそこだけに照明が当たっており、それはまるで舞台のショーのようでもあった。 「くっせえ金玉だな……こんなくせえ金玉ぶら下げて、さっきまでラーメン作ってたのか、おい、大将」 周作の尻の下に顔をうずめ、ひたすら股ぐらのにおいを嗅いでいるその男は、そんな下品な言葉で周作をなぶる。 「う、ぅぅ……」 周作は屈強な体をびくびくと震わせながら、男からの屈辱にただ耐えていた。 男の頭が周作の尻の下で細かく前後に動く。 「ふ、ぅあぁぁぁぁっっっ!」 周作は、こらえきれないように低く声を漏らした。 「金玉しゃぶられただけで、チンポまでギンギンに固くしやがって、とんだ淫乱だな」 蔑むようにそう言い放った男は、周作の尻から顔を離し、ゆっくりと立ち上がった。 「前のめりになって、尻を突き出せ」 周作は抵抗もせずに、黙ってその通りにした。 男は薄笑いを浮かべると、目の前にさらけ出された周作のがっしりとした尻たぶに両手を置き、それをぐいっと左右に押し広げた。 「うっ、ぐぅっっ」 「相変わらず、スケベそうなケツ穴だな」 男は、周作の厚い尻肉をマッサージのように、ぐにぐにと揉みしだいた。その慣れた手際に、はぁっ、んんっ、と周作の口から熱い吐息が漏れる。 男は満足げな顔で周作の尻から手を離すと、自分のズボンのベルトに手を掛けてゆるめ、下着とともにそれを引き下ろした。 すると、そこからずんぐりとした太長い肉刀がのそりと顔を出した。それは、すでに鎌首をもたげている。 「てめえのチンポには触んじゃねえぞ。『いつも通り』俺のチンポだけでイカせてやるからな」 そう低い声で命じた男は、ジャンパーのポケットからコンドームを取り出し、まずそれを自分のペニスにかぶせた。そして、ふたたび周作の尻をつかむと、その間に自分の巨砲の先をぐっと押しつけた。 2.  「は、ぁぁぁん……」   周作の口から女のようなあえぎ声が漏れる。  「なんだぁ、てめえケツに俺の亀頭押しつけられただけで感じてんのか」  「そ、それは……っ」   男の顔が、残忍な笑みで歪んだ。  「なら、こうすればもっと感じる……よなっ!」   ズンッ、と男は、腰を前に突き出した。  「あぁぁぁぁっっっ!!」   悲鳴にも似た周作のあえぎ声が、店内に響きわたった。   そんな周作を構いもせず、男は周作のがっしりとした腰をつかみ、自らの肉棒で目の前の尻を突きまくった。  「ぐぅぅぅっ、おっ、あっ、おおおっっ!」  「おおっ……やっぱり、大将の、ケツは最高だな……カカアの、ユルマンたぁ、締めつけからしてちが……うってもんだ」   昼間は客の目の前でラーメンを作っている場所で今、パンッ、パンッ、と肉と欲望がぶつかり合う淫らな音が響きわたっている。
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 「……!」   祐はいつの間にか、自分のペニスがズボンと下着を突き上げ、ぎりぎりと痛いほどに勃起しているのを感じていた。その先端には先汁がじんわりとしみ出しているのがわかる。   男同士のセックスなんて、醜悪の極みだと思っていたのに……。   そんな祐の視線も知らず、男たちは、互いに快楽の果実をむさぼり食っていた。   汗みずくの顔をいきらせた周作が、  「ヒワダさん、お、俺、もう……い、い……」   人形のようにがくがくと大きく体を揺らしながら、男に懇願した。  「ふん、もうイクのか。しょうがねえな」   ヒワダ、と周作に呼ばれた男は、さらに腰のスピードを上げていった。  「うぁぁぁぁっ!! い、イク、イッちまうぅぅぅぅ!!」  「オラ、てめえの大好きなチンポのごちそう、たんと喰らえや!」   ヒワダは最後に吠えるようにそう叫ぶと、周作の尻に自らの腰でガツンと一撃を加えた。  「うっ、ああっ……で、で、出るぅぅっっっ」   二人の動きが止まり、びくびくと彼らの体がけいれんするように震えた。そして彼らは、射精後の男が見せる緩んだ表情を浮かべた。   ヒワダはなおも微妙に腰を動かし、自分の巨砲をぐいぐいと周作の腸壁にこすりつけている。そして、それを周作の尻からずるりと抜き去ると、てかてかと淫らに光ったその肉棒がだらりと垂れ下がった。   それからヒワダは、周作の足元をじろりと見て、ふふ、と笑った。  「……なんだい大将、このザーメンの飛ばしっぷりは。てめえのチンポ汁が食器にまでかかったんじゃねえのか」   キッチンに寄りかかった周作は、ただうつろな目で射精の余韻に浸っていた。   祐は、股間を押さえたまま、その様子を物陰から、ただ呆然と見ていた。 ***   翌日の昼時。   店のキッチンで皿洗いをしていた祐の手からつるりと滑った皿が、木の床に落ちて、ガチャンと粉々に割れた。   祐はその様子を、どこか他人事のように見ていた。  「バカヤロッ、何やってんだっ」   ラーメンのトッピングを盛りつけながら小声で周作が囁き、客には「どうもすいませんっしたー」と頭を下げる。その姿は、いつもの男気のある「大将」そのものだ。   祐はのろのろと割れた皿を片づけながら、ふと、これまでのことを思い出していた。   祐にとって、周作はラーメン屋の師匠であると同時に、尊敬すべき人生の先輩でもある。   大学中退後、何のあてもなく全国を放浪していた祐は、二年前にこの街にやってきた。当時手持ちの金も底をついていた祐は、バイト募集の張り紙を見てふらりとあるラーメン屋に立ち寄った。その店で修行していたのが周作で、それが二人の初めての出会いとなる。   彼らが一緒に働くようになって二か月経ったある晩、仕事帰りに祐と居酒屋で酒を飲みながら、周作はこんな話をしてくれた。   周作もまた当時の祐と同じ二十二歳の頃、自分の進むべき道に迷い、それまで勤めていた一流商社をやめ、二、三年ほど世界を放浪して歩いたという。その末に、ラーメンは世界に誇れる日本文化だと確信した周作は、将来自分の店を持つために帰国後全国の様々な有名店を修業してまわっているのだそうだ。  (周作アニキ、俺、感動したっす。俺、アニキに一生ついていくっす!)  (ははは、なら、いっそのこと、俺が始める店で働くか)  (はいっ、俺、アニキの店で働きたいっす、俺をアニキの弟子にしてくださいっ!)   そんな会話を交わしてから数か月後、いよいよこの街に周作の店「らーめん飛流」がオープンすることが決まり、祐は、本当にカバン一つでそこへ押しかけていった。   ――それから一年が経ち、祐は今ここで働いている。   昨日知ってしまった「秘密」を抱えたまま。 ***   午後三時を過ぎた、客がいない店内で。  「祐、おまえなんか心配事でもあんのか」   祐が洗い場で麺揚げの練習をしていると、突然、周作がそう声を掛けてきた。  「えっ……」  「おまえ、今朝からなんか様子がおかしいぞ」   祐の中で、昨日の夜の衝撃がフラッシュバックする。   周作は、まさにこの場所で女みたいなよがり声を上げ、あのヒワダという男にケツを掘られていた。   周作は明らかに「感じて」いた。そして、祐自身もそれを見て欲情していた。   その事実は、祐にこれまで感じたことのない、ほの暗い背徳感を与えていた。 ***   祐がそれをどうすることもできないまま、瞬く間に、翌週の木曜は訪れた。   午後十一時半、いつものようにふらりとヒワダは周作の店に現れ、いつものように「うま塩ネギのせらーめん」を注文した。そして先週と同様に、周作は祐に早帰りを命じ、祐は素直にそれに応じて、いったん店を出た。   ――が、すぐに祐は裏口に回って倉庫に身を隠し、しばらく物陰から店の中の様子を窺っていた。   二人は何やらぼそぼそと話をしているようだが、祐のいる場所までは、その内容は伝わってこない。   午前〇時。周作はヒワダを店に残したままのれんをしまい、店仕舞いを始めた。   ラーメンを食べ終わったヒワダはガタリと椅子から立ち上がり、周作が店の玄関の鍵をかけたのを確認して、  「――仕方ないな。じゃあ、またあんたの体で『払って』もらうとするか」   ヒワダは周作のあごをぐいとつかみ、それに自分の顔を近づけて、ゆっくりと舌をからめるようにキスをした。  「う、ぅぅ……」  「ふ、むむ……」   二人の男のくぐもった声が、その口元から聞こえてくる。   それを確認した祐は、  「やめろ!」   がらりと倉庫の扉を開けて、二人の前に飛び出した。  「……!!」   周作はあわててヒワダから体を離そうとしたが、ヒワダは逆に祐に見せつけるように、周作の後頭部を左手で押さえ付け、ぐちゅぐちゅとねじ込むように舌を周作の口の中でかき回している。   そして、それをじっくりと味わってから、ヒワダは周作から唇を離した。 3.  「なんだね、君は。もう帰ったんじゃなかったのかい」   薄笑いを浮かべているヒワダに、祐は声を荒げた。  「『なんだね』じゃねえってんだよ! あんたこそうちの大将に何やってんだよっ!」   周作はショックを隠し切れないように、ただ唇を震わせていた。  「祐……おまえ……」  「おかしいっすよ……大将がこんな男に抱かれるのも、そもそも男同士でこんな……」  「おいおい何か勘違いしているんじゃないか、君」   ヒワダは余裕の表情のまま、どすんとカウンターの椅子に座った。  「私が大将に無理強いをしているとでも思っているのかい」   周作は祐の視線を避け、つらそうに顔を伏せた。  「おい、大将。自分の口からきちんと彼に説明してやったらどうなんだい。私が無理にあんたを抱いているのかどうか」   周作は、顔を伏せたままずっと黙っていた。   そして、しばらく沈黙したあと、やっと重い口を開いた。   それによるとこの男日和田は、街金の社長をしているという。   周作が一年前この店をオープンさせる際、開業資金として、自分で用意できる金よりもさらに多い五百万ほどの金が必要になった。しかし、それまでフリーターのような生活をしていた周作に、銀行はもちろん、大手の消費者金融も資金の融資は許可しなかった。そして、最後に残ったのが日和田の店だった。   店のオープンからしばらくは、日和田に借りた金の利息を返済できていたが、客足の伸び悩みとともに半年ほど前から少しずつ返済が滞り、ついに九か月後には返済が完全にストップしてしまった。周作がその件を日和田に謝罪したところ、日和田は返済を待つ唯一の条件として、一つの「提案」をした。   それが、祐が先日目撃した行為だ。   すべてが、祐にとっては初耳だった。  「大将、うちの店の経営そんなに……」   周作はうなだれたまま、苦しげな声で、  「これは全部俺の責任だ。俺はこれまでラーメンの修業はしてきたが、経営の勉強は一切してこなかった。今になってそのつけが回ってきたんだ」   足を組んでいる日和田は、余裕の表情を崩すことはない。  「私も、慈善事業をしてるわけじゃないんでね。もうそろそろ返すものは返していただきたいんだが、そのたびにおたくの大将にこうやってケツを突き出されて、いつの間にかあいまいにされてしまう」  「そんな……」   気が抜けたように祐は、床に座り込んだ。そして、日和田の前に両手をつくと、  「なんとか、返済は待ってもらえないでしょうか、お願いします!」   頭を下げ、土下座をした。   周作もまた祐のそばにしゃがみこみ、苦悩の表情でその肩を抱いた。  「おやおや、若いのにずいぶん時代がかった真似をなさる。世の中、すべて土下座で済むのなら、警察も金貸しも必要はない――が」   日和田はにやりと笑って、祐の体をじろじろと見た。  「一つ、方法がないわけでもない」  「方法って……」  「君たち二人が私の『趣味』を満足させてくれれば、まあ、もうしばらく返済は待ってあげてもいいだろう」   ……やめろ! と、周作が叫んだ。  「こいつには何の関係もない!」   しかし、日和田の顔から好色な笑みが消えることはない。祐をじろりと見た日和田は、  「君も若い。『そっち』のほうもかなりたまっているんじゃないかね」  「……!」  「どうだね。いつもお世話になっている大将に、今日は『そこらへんの世話』もお願いしてみたら」  「祐、おまえはもう帰れ!」  「そしたら……店、どうなるんすか」   祐の問いに、周作は黙りこくった。  「大将……俺たちの夢、ここでつぶすわけにはいかねえっすよ」   そして祐は、日和田に、わかりました、と告げ、  「……その代わり約束してくれますか。借金の返済はしばらく待ってくれると」   日和田は「ああ」と笑い、  「すべて私の言う通りにしてくれるならね」 ***   祐の目の前に、信じられない光景があった。   日和田の指示で、白い円柱型帽子(「和帽」という)をかぶり、エプロンを付けて仕事着に再び着替えた祐は、そのままキッチンの中に立たされた。そして、祐の足元に、和帽だけかぶり、あとは靴以外何も身につけていない周作がしゃがみこんでいた。   祐が初めて見る「大将」の全裸がそこにはあった。   周作の体は三十代半ばのわりにはかなり引き締まっており、盛り上がった筋肉は浅黒くつややかで、どちらかと言えば体毛は少ない。そして、周作の股間にある剥け切った赤銅色の性器は、膨張のきざしさえ見せつつある。   頭上の店長用の和帽と、首から下のあられもない格好が、とてつもなく淫猥だった。  「こんなことになってしまって……本当に、すまん」   眉根に深いしわを寄せたまま、祐を見上げた周作は、弱々しくそうつぶやいた。  「大将、まずは彼の……祐君……だったか、チンポをしゃぶってやりなさい」   カウンターの椅子に座って、それを見ていた日和田の命令が下る。   周作は日和田に言われるまま、祐がつけているワインカラーのソムリエエプロンを無言ではずし、その下の黒いズボンのベルトに手をかけてゆるめた。   そして、少しのためらいの後、周作はゆっくりと祐のズボンを下着ごと引き下ろした。  「……!」   いま大将の目の前に、自分の汗臭いペニスがある。そう思っただけで祐は、火がついたように体がかっと熱くなった。
Shunpei Nakata 中田春平 木曜日の男
 「……ほう、少し皮はかぶっているが、なかなか立派なサイズじゃないか、祐君」   無遠慮な日和田の“品評”も、祐の羞恥心をことさらに掻き立てた。   周作は、その柔らかな肉根に右手をやると、いつもはラーメンを調理している太い指でそれをつまんで、竿の先をくにくにと揉みしだいた。  「あっ……んんんっ」   その刺激に、思わず祐の口から声が漏れた。   それを見て、日和田がにやにやと笑う。  「君も我慢しなくてもいいんだよ。感じたら素直に声を上げればいい。そのほうが『ショー』はより面白くなる」   沈痛な表情をしたまま周作は、ゆっくりと祐のペニスに顔を近づけ、ぼってりとした唇でその輪郭を包みこむと、舌の表面で祐の肉棒の鈴口をこすり上げるようにしごき立てた。  「く、はぁぁっっっ」   つぼを押さえた周作からの刺激で、祐の肉棒も半勃起から、あっという間にがちがちに固くなった。  「なんだ祐君、全裸の大将からチンポしゃぶられて感じてるのか。男からフェラされるのもなかなかいいものだろう、うん?」   祐は、とにかく耐えていた。   この変態じみた地獄が早く過ぎ去ればいいと思っていた。  「う、む……う、うっ、ああっ」   しかし、周作から連続して与えられる直接的な刺激に、こらえようとしても、思わず声が出てしまう。 4.  「師匠と弟子のこれ以上ないほどの麗しい愛情――いい眺めだ」   日和田は笑う。  「しかしまだ愛情が足りないようだ。おい、大将、もっとぐちゅぐちゅ音出して弟子のチンポしゃぶってやれや」   だんだんと日和田の口調が下卑てくる。   周作はさらに唇をすぼめ、祐の先走りと自身の唾液にまみれた肉棒をじゅぶじゅぶと下品な音を立て、その隅々までなめ回した。  「あっ、あっ、あっ、ヤバいっすよ、大将……き、き」   気持ちいい、と言い掛けて、ぎりぎりのところで祐はこらえた。それを口にすることは、日和田への完全な降伏を意味するからだ。  「大将、弟子のチンポしゃぶりながら、てめえのチンポもしごけ」   日和田の命令通り、周作は、左手と口で祐の性器を支え、右手で自分の性器をごしごしとしごき始めた。  「おいおい大将、淫乱も度が過ぎるんじゃねえか。もうチンポを先汁でべとべとにしやがって。てめえのチンポしごき立てる音がこっちまで聞こえてんぞ」   日和田の言葉通り、周作の股間ではぎりぎりといきり立ったペニスが、手筒の中に出し入れされるたびに、ぬちゅぐちゅと湿った音を立てている。  「あっ、んん、は、ぁぁっ」   周作の肉厚の唇で半分皮をかぶった陰茎をしごかれるたびに、祐の口から甘い吐息が漏れる。  「ううっ、ふぅっ、うむむっ」   そして、周作もまた自分の肉棒をしごきながら、顔を赤らめ、目をとろんとさせ、目の前の卑猥な単純作業に没頭していた。   それは、祐の知らない周作の姿だった。   日和田は立ち上がり、カウンターに手を突いて、祐の耳元で、  「そろそろ大将のマンコに突っ込んでみたいだろうが、ああ?」  「マ……っ!」   祐にとっての「それ」は、女にしかない器官のことでしかない。 「大将、男の『マンコ』がどこにあるのかこいつに教えてやれや」   祐のペニスから口を離した周作はよろよろと立ち上がり、祐に背を向けながらラーメンの置き台に手を突いて、尻をぐっと突き出した。  「いま、てめえの目の前にあるのが、男のケツマンコだ。てめえのチンポをそこに突っ込んで大将を満足させてみろ」  「っっ……そんな……」  「早く突っ込めや。それとも返す金の当てでもあんのか、コラ」   もう、この男の命令に逆らうことはできない。  「すんません……大将」   毛が密集した周作の後孔に、祐は、唾液と先走りで濡れた亀頭の先をぺとりとつけた。  「ふ……んあああっっ」   それだけで周作は身をよじらせ、あえぎ声を上げた。  「このど淫乱が! 誰の亀頭でも感じんのか、大将よっ」   日和田にそう罵られ、全身に脂汗を浮かべた周作はこれ以上ないぐらいに勃起していた。  「そうそう、マンコにチンポ入れるときは、これ使わねえとなあ」   日和田は、ジャンパーのポケットから、コンドームを一つ取り出した。   それを手渡された祐は、ただ固まっていた。  「おい、ヤんのかヤんねえのかっ」  「……っっ!!」   祐はぎこちない手付きで、自らのペニスにそれを取り付けた。   そして、あらためて亀頭を周作の尻の間にゆっくりと押し当てる。  「……大将、いきます」   祐は、そのままずぶりと周作の尻の中に、ペニスを押し込んだ。  「う……あああっっっ」   周作が上ずった声を上げた。祐のペニスを周作の熱い腸壁が包みこむ。  (ああ……俺、大将のケツにチンポ入れちまった……)  「ちゃんと腰動かせよ」   日和田に言われるまま、祐はゆっくりと腰を動かした。  「た、大将……痛くねえっすか」  「だ……いじょうぶだ……う、ううっ」   にやにやとその結合部を覗き込みながら、日和田は低い声で祐の耳を愛撫するようにささやく。  「両胸の乳首もつまんでやれ」   祐が周作の厚い胸板をまさぐり、その中でぷっくりと飛び出した周作の乳首に手をやると、  「はぁぁぁぁぁんっっっ!」   周作がまたあえぎ声を上げた。  「どうだ、大将の乳首がこりこりに勃起してるだろう。てめえのチンポで『女』にされて、感じてる証拠だ。もっと感じさせてやれ」   祐が腰を動かすたびに周作の熱い粘膜が祐のペニスにねっとりとからみつき、今まで女相手には味わったことのない快感を祐に与えていた。   性器を包みこむこのざわざわとした得体の知れない快感も、踏み入れてはいけない世界に入ってしまった現実も、祐をただ不安にさせた。   一刻も早く射精をして、終わらせたかった。  「うぉぉぉぉぉっっっ!」   祐は力任せにがしがしと腰を使った。  「んぁぁぁぁぁぁっっっ!」   周作は、祐の激しい突きに、肉食動物のような咆哮を上げた。   祐が周作を突き上げるたびに、二人をつなぐ一点から、ぐちゅっ、ぬちゅっ、と淫猥な音、そして、テーブルに積み上げられた食器のガチャガチャという音が鳴り響く。   それを見ながら、日和田は満足げに笑う。  「はは、てめえらだいぶノッてきたようだな」   祐はもう限界に達そうとしていた。  「た、大将……俺、イッ……イキますっ。すいません、すいませんっ……」   全身に汗を浮かべた周作は、眉根にしわを寄せて、こくこくとうなずいた。   そして、最後の一突きで、周作の熱い腸壁で祐の鈴口と裏筋がこすりあげられた瞬間、  「あぁぁぁぁぁっっっ、出るぅぅぅっっっ!」   祐は、周作の中で何度も暴発した。
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  同時に、周作は「う、ぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」と叫び声を上げ、その肉棒の先から、大量のザーメンを勢いよく床の上に放った。   数秒も経たずに、食べ物屋にはそぐわない、男たちの生臭いにおいが店内に漂った。  「ふふ、なかなか面白いものを見させていただいたよ」   祐は、周作の尻からずるりと肉棒を引き抜いて、目を伏せながら日和田の顔を向いた。  「こ、これでいいのかよ……」   屈辱で、声が震えていた。  「ははは、何を寝ぼけたことを言っているんだ」   日和田は笑いながら、キッチンの中に入ってきた。  「これだけでは利子にすらなりはしないよ」   そして、日和田はズボンのジッパーを下げ、その中からすでに反り返った巨大なペニスを取り出した。  「さあ、今度は『私も』楽しませてもらう番だ」   祐を押しのけて、日和田は床の上にへたり込んでいる周作の前に立つと、そのいきり立ったペニスで周作の顔をぺしぺしと二、三度たたき、それを周作の鼻先に突きつけた。  「ふ、うむむっっ」   周作は祐の目の前で、迷うことなくそれにむしゃぶりついた。  「……大将……」   男たちの終わりのない「ショー」が、いま始まろうとしていた。

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